避妊薬を処方してもらいに来られる方が最も多く尋ねる質問の一つが「この薬を飲むと血が固まると聞いたのですが大丈夫ですか」です。経口避妊薬と血栓(静脈血栓塞栓症)の関連性は事実ですが、すべての避妊薬のリスクが同じではありません。特に、同じ複合経口避妊薬でも、その中に入っているエストロゲンの種類によって血栓リスクの様相が変わりうるという点はあまり知られていません。診察室で見ると、プロゲスチンの世代差は聞いたことがあっても、エストロゲン成分別の差まで吟味する方はまれです。今日は、エチニルエストラジオールとエストラジオール、そして比較的新しいエストロゲンであるエステトロールが血栓リスクでどう異なるかを、学会の勧告を根拠に整理してみます。
複合経口避妊薬の中のエストロゲンは一種類ではありません
複合経口避妊薬は、エストロゲンとプロゲスチンの二つのホルモンを一緒に入れた薬です。よく避妊薬の副作用を話すとき、プロゲスチン(黄体ホルモン)の世代だけが取り上げられますが、対をなすエストロゲンの種類も血栓リスクを左右する重要な軸です。現在使われているエストロゲンは大きく三つに分けられます。
- エチニルエストラジオール: 数十年間最も広く使われてきた合成エストロゲンで、ほとんどの既存の避妊薬に入っています。
- エストラジオール(エストラジオール吉草酸エステルを含む): 人の体で自然に分泌されるエストロゲンに近い形です。
- エステトロール: 妊娠中に胎児で作られる天然エストロゲンで、比較的最近に避妊薬に導入されました。
同じ「エストロゲン」という名でくくられますが、肝臓での凝固因子の生成に及ぼす影響が互いに異なり、血栓リスクの度合いが変わります。この違いを理解すると、なぜ医療陣が人ごとに異なる製剤を勧めるのか納得できます。
なぜエストロゲンの種類が血栓リスクを分けるのか
エストロゲンが血栓リスクに関わる核心経路は肝臓です。エストロゲンを経口で服用すると、吸収された成分が肝臓を経て、凝固に関わるタンパク質(凝固因子)の合成に影響を与えます。この肝臓への刺激が強いほど、血液が凝固する方へ傾きうるのです。
エチニルエストラジオールは合成過程で分子構造が変形され、体内でうまく分解されず、その分、肝臓の凝固因子の生成に比較的強い影響を及ぼすことが知られています。一方、天然型エストロゲンであるエストラジオールとエステトロールは、肝臓の凝固タンパク質の合成に対する影響が相対的に弱いと報告されます。特にエステトロールはエストロゲン代謝の最後の段階に近い産物で、肝臓に及ぼす影響が小さく、血栓リスクの面で有利だろうと期待されています。
重要なのは「どのホルモンか」だけでなく「そのホルモンが肝臓をどれだけ刺激するか」です。エストロゲン種類別の血栓リスクの差は、まさにこの肝代謝経路の違いから生じます。
ただし、こうした差が実際の臨床で血栓発生をどれだけ減らすかはまだ長期データが蓄積される段階であり、個人差がありうるという点を念頭に置いてください。
合成エストロゲンと天然型エストロゲン、何が違うのか
複数の研究を総合した最近の分析は、天然型エストロゲンを使った避妊薬がエチニルエストラジオール製剤より血栓関連の報告が少ない傾向を示すと整理します。欧州医薬品庁の副作用報告データベース(EudraVigilance)を分析した研究(2024)でも、エストラジオールやエステトロールベースの複合避妊薬は、エチニルエストラジオールベースの製剤より静脈血栓の報告比率が低く、その水準がプロゲスチン単独避妊薬に近かったと報告されます。
下の表はエストロゲン種類別の特徴を単純化して整理したものです。絶対的な等級ではなく、傾向を理解するための参考としてご覧ください。
| エストロゲンの種類 | 分類 | 肝凝固因子への影響 | 血栓リスクの傾向 |
|---|---|---|---|
| エチニルエストラジオール | 合成 | 相対的に大きい | 基準となるリスク |
| エストラジオール(吉草酸エステル) | 天然型 | 相対的に小さい | 低めと報告 |
| エステトロール | 天然型 | 小さいと期待 | 低いと期待 |
この傾向だけ見ると天然型が無条件に良いと思いがちですが、一緒に入るプロゲスチンの種類、服用する人の年齢と体重、喫煙の有無、家族歴のような変数がすべてリスクに影響を与えます。したがって表一つで薬を選ぶことはできず、全体のリスク要因を併せて検討しなければなりません。
避妊薬の選択と血栓リスクが心配なら、妊娠・避妊クリニックでご自身のリスク要因を一緒に点検してもらうことをお勧めします。
エストロゲンの用量も併せて見なければなりません
種類だけでなく、エストロゲンの用量も血栓リスクを左右する要素です。一般的にエストロゲンの用量が高いほど血栓リスクが上がる傾向があり、これまで避妊薬はエストロゲン含量を下げる方向へ発展してきました。
米国生殖医学会(ASRM)診療委員会の整理(2016、2017改訂)によると、エチニルエストラジオールの用量が35マイクログラム水準の製剤は、それより低い用量の製剤と血栓リスクが同程度と報告されます。一方、50マイクログラム以上が入った高用量製剤は、低用量製剤より血栓リスクが高かったと整理されます。幸い、50マイクログラム以上の高用量経口避妊薬は現在一般的に市販されておらず、処方される薬はほとんどが低用量製剤です。
まとめると、市中の低用量避妊薬どうしでは、エストロゲン用量の差による血栓リスクの差は大きくなく、むしろエストロゲンの種類と対をなすプロゲスチンの方がより意味のある変数になります。避妊方法全般が気になるなら、避妊方法にはどのような種類があるかの案内も併せて参考にされるとよいです。
飲む薬と貼るパッチ、リスクは違うのか
服用経路を変えれば血栓リスクを避けられるのか気にされる方が多いです。結論から申し上げると、同じエストロゲンを経口で服用してもパッチで貼っても、血栓リスクで意味のある差はあまり現れません。皮膚から吸収される成分も結局は血流に乗って肝臓に作用するからです。
英国性・生殖保健学会(FSRH)の複合ホルモン避妊指針(2023)でも、パッチ、膣内リング、経口剤のような複合ホルモン避妊の剤形全般で血栓リスクを考慮すべきだと案内します。特に一部の分析では、パッチ使用開始時点のリスクが低くなく報告されることもあり、経路を変えればリスクが消えると断定するのは難しいです。
パッチに変えれば血栓の心配がないという考えはよくある誤解です。剤形より重要なのは、ご自身のリスク要因と適切な製剤選択です。
したがって「薬の代わりにパッチ」というような単純な交換よりも、喫煙・年齢・体重・家族歴などご自身の条件に合った選択を医療陣と相談して決める方が安全です。
避妊薬の血栓リスクを相談する診察室で一緒に点検するリスク要因
臨床経験上、避妊薬を始める前に最も重要なことは、薬の種類を選ぶことではなく、ご自身の血栓リスク要因をまず点検することです。同じ薬でもリスク要因が重なる方には勧めないことがあるからです。診察室でよく確認する項目は次のとおりです。
- 喫煙の有無と喫煙量、そして年齢(特に35歳以上の喫煙者)
- 肥満、高血圧など併存疾患
- ご本人または直系家族の静脈血栓の既往
- 長時間の不動状態(長距離フライト、手術後の回復など)
こうした要因があれば、エストロゲンの種類を天然型に変えるだけでリスクが十分に低くなるとは見にくく、場合によってはエストロゲンのない避妊方法を検討する方がより安全なことがあります。突然の片脚のむくみと痛み、息切れ、胸の痛みのような症状が現れたら、直ちに診療を受けてください。女性の健康全般の点検が必要なら、女性健康診療で相談を受けられます。
それでどの避妊薬を選ぶべきでしょうか
エストロゲンの種類による血栓リスクの差は確かに意味がありますが、それ一つだけで薬を決めることはありません。天然型エストロゲン製剤が血栓報告が少ない傾向を示すのは事実ですが、一緒に入るプロゲスチン、ご自身の健康状態と生活習慣をすべて総合してこそ、最も適した選択に至れます。診察室で見ると、同じ悩みを抱えて来られても、結局お勧めする薬は人ごとに異なります。
最も安全な方法は、ご自身のリスク要因を率直にお知らせいただき、医療陣と一緒に種類・用量・剤形を決めることです。避妊は生涯にわたって変わる選択なので、一度決めた薬を使い続けるより、体の状態の変化に合わせて定期的に点検することをお勧めします。避妊薬と血栓リスクについてさらに気になる点があれば、チャット相談で気軽にお問い合わせください。
執筆者: イ・ドンヒ 代表院長 · 産婦人科専門医 · 医療スタッフ紹介を見る
初回発行 2024年1月28日 · 最終レビュー 2026年5月30日
参考資料: FSRH 複合ホルモン避妊指針 (2023), 米国生殖医学会 ASRM 診療委員会 (2016, 2017), 欧州医薬品庁 EudraVigilance 分析 (2024)
本稿は一般的な健康情報を提供するためのもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は診療を通じてご相談ください。